「エモいデザイン」について考える
ここ数年、「エモい」という形容詞をよく耳にします。
なんとも言えない良い感じのモノ、昔の日本語表現(枕草子や源氏物語など)で言うところの「いとをかし」的な感情を表現する場面で使われる若者言葉です。
音楽や映画、イラスト、漫画、小説、デザインなど、あらゆるものに冠して使えるスラングとして、ミレニアル世代~Z世代を中心にすっかり定着した表現となりました。
しかしその定義は非常にあいまいで、しかも受け取り方には個人差があり、輪郭を掴むのが難しい概念でもあります。
「エモい」ってなんだろう?
「エモ」とはエモーショナル、元をたどれば80年代アメリカの音楽シーンで生まれた「Emo」がその語源だと言います。
現在では「感情に訴える、感動的な、感情的な・落ち込みやすい」という意味合いで使われる英単語「Emo」ですが、日本でその用途で使われることはほぼ無く、日本語の「エモ」と英語の「Emo」はまったく別物のようです。
冒頭で「エモい」=「なんとも言えない良い感じ」であると述べましたが、その他にも
・郷愁、ノスタルジー
・感傷、センチメンタル
・叙情
・哀愁
などのニュアンスも含んでいるように感じます。ただ「素敵な感じ」なだけではなく、「ちょっと懐かしくて切ない雰囲気」もキーワードのようです。
これらの感覚を貫く縦軸は「共感」ではないかと思います。
過去に経験した(もしくは、実体験はなくてもメディアを通して知った)素敵なシチュエーション、それを想起させるモノに出会って共感した時に込み上げる複雑な感情、それらすべてを詰め込んだ言葉が「エモい」のようです。
「エモいデザイン」ってなんだろう?
デザインの仕事をしていると「エモい」と向き合うシーンが多々あります。この言葉が含むとても抽象的なイメージを、デザインという形にアウトプットしなければなりません。
では具体的に、それらにはどのような特徴があるでしょうか。私が感じる「エモいデザイン」の例を挙げてみようと思います。
手書き文字、手書きイラスト
手書きから感じられる人肌の温もりや穏やかさ、日記や手紙を思わせるパーソナルな雰囲気は、経験や共感をベースに形成される「エモさ」を強く感じさせる要素です。
アナログな質感
解像度が高いスマホの写真や、量産された画一的な商品で溢れた現代において、インスタントカメラで撮ったようなエッジが甘めな写真や紙の質感、版ズレ、線のにじみなどのアナログな印象は、逆に魅力的に感じられます。このあたりは昨今のレトロブームも関係がありそうです。
広めの余白
文字の組み方や画面構成にゆとりを持たせ、写真や紙面に広めの余白を残します。機能性を排した風通しのいいデザインは、イメージを受け手の理性面ではなく感情面に訴えることが可能です。
まとめ
若者言葉「エモい」の普及には、TikTokやInstagramなどのSNSの台頭が無関係ではいられません。日々洪水のように押し寄せる「エモ」を浴びながら生きる我々の中で、エモさを感じさせるイメージは徐々にパターン化されていきました。先述したデザインの要素もまさにその一端です。
類型化されたことで批判の的にもなりがちな「エモい」ですが、ポスターや広告などを受け手の感性に訴えることができる、という点で、その要素をデザインに取り入れるメリットも多いのではないでしょうか。
もともとみんなが持っていた「なんとも言えない良い感じ」という感覚に「エモい」という名前がついた、とのことなのであれば、それを表現することに流行り廃りは無いように感じます。
「エモい」という言葉が持つエッセンスには、多くの人の共感を得られるデザイン作りのヒントが隠れているかもしれません。
グラフィックデザイナー / S.M