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シンプルなデザインについて考える

シンプルなデザインについて考える

デザインの仕事をしていて、クライアントからよく受けるリクエストに「シンプルなデザインにしてほしい」というものがあります。デザイン分野に限らず私たちの日常生活に広く浸透しているこの言葉。しかし、「シンプル」を捉える感覚にはかなり個人差があり、実はニュアンスを掴むのが難しい表現でもあります。

そもそもシンプルってなんだろう

日本語にすると「簡単」「単純」「基本的な」という意味になるSimpleという英単語。シンプルなデザインと聞くと、どのようなものをイメージするでしょうか。要素が少ないもの、装飾が無いもの、スッキリしているもの…。改めて考えてみると、ひとことで言い表すのはなかなか難しいです。

たとえば、「シンプル」とよくセットで使われる表現に「ミニマル」があります。1960年代アメリカのアートシーンで生まれた表現様式である「ミニマリズム」は、いまでは芸術分野だけではなく、最小限のもの以外持たないライフスタイルを指す言葉としても一般的になりました。その意味は「非本質的なフォルム、特徴、概念を排して、欠くことのできない本質的なものを表現する傾向」(引用『美術手帖』 )、つまり、積極的に引き算を行い、どんどんモノを減らしていくのがミニマリズムです。
一方で「シンプル」とは、要素の足し算を最小限に抑え、デザインを整理整頓することで生まれます。
iPhoneAppleの最高デザイン責任者を務めたデザイナー、ジョナサン・アイブは、「シンプルとは単に不要なものや装飾を省くだけでは生まれない」、それは「bringing order to complexity(複雑さに秩序をもたらす作業)」なのだと説明しています。
Introducing iOS 7 (1分あたりからがJonathan Iveの該当コメント)

単に構成要素を減らすことが重要なのではなく、情報の取捨選択をしていくなかで、過剰な装飾を削ぎ落として生まれるのが「シンプルなデザイン」なのです。

シンプルさがもたらすもの

飽きられない普遍性

流行が目まぐるしく変化する現代、トレンドを追ったデザインは、時代が変われば「古臭い」と感じるものになってしまいがちです。しかし、無駄を排したシンプルなデザインは、時の流れでその魅力が色褪せることがありません。

明快なコミュニケーション

ぱっと見たときに目に入る要素が少ないということは、それだけ受け手の視線を誘惑するモノが少ないということです。言いたいことをよりクリアに受け手に伝えるためにも、シンプルさはとても有効な武器です。

心地よさ、美しさ

過剰な装飾がなく研ぎ澄まされたシンプルさは、美しさにも繋がり、同時に心地よさも与えてくれます。また、情報が整理された分かりやすいデザインは、年齢や性別をこえて多くの人に愛されるものになりえます。

まとめ

偉大な先人たちの言葉を引用すると、芸術家レオナルド・ダ・ヴィンチいわく「Simplicity is the ultimate sophistication(シンプルさは究極の洗練)」であり、建築家ミース・ファン・デル・ローエいわく「Less is more(少ないことは豊かなこと)」だと言います。
SimpleとEasyは同義ではないシンプルなデザインは、ともすれば簡単に作れるデザインとも見られがちです。しかしSimpleはEasyと同義ではありません。使用する要素が少ないからこそ、すみずみまで気を配り、多くのことを考えながらデザインしなければなりません。

グラフィックデザイナー / S.M