2020年12月、デザインについて思うこと。
在宅勤務とデザイン
2020年初頭に新型コロナウイルス感染症(COVID -19)が発生して以来、2020年12月の現在も世界的に感染が拡大し、未来を見据えることのできない不安な状況が続いています。今回の感染症は、これまでの前提を覆す程の影響力を持つと同時に、人や物の交流が制限され経済や社会の仕組みをも変革させてしまう状況を作り出しました。今年4月より、私も数ヶ月に及ぶ在宅勤務、テレワークを経験するとともに、世の中の流れと同じように積極的にオンライン会議を活用した業務を遂行してきました。デザインというデスクワーク中心の業務と、IT関連の業態であることが幸いして、在宅勤務という大きな変化がありながらも、毎日の業務を問題なく進行することができました。今回の業務形態の変化について、実は私にとって効率的な部分もあり、在宅でも仕事ができることを確認できたことはとてもよかったと思っています。クライアントへの往訪を省いたオンライン会議や、通勤時間削減などの時間の有効活用、それによってデザイナーとして自分のペースで集中してクリエーションができたことは大きな成果でした。
変化に対応することで今まで非日常だったものが日常化し、望んだことではないにしろ、新しい日常を受け入れ毎日を過ごしていく。デザインは、日常の中で必要なアイデアや問題の解決法を見出していくものなので、日常となったオンライン会議の中にも新しい発見があるはずだし、直接会って打ち合わせができないという制約があってこそ生まれる新しいデザインもあるはずと考えることで少しだけ前向きなることができていたように思います。
ピンチをチャンスに
新しい日常が現在も続いている中で、私は今回の感染症がきっかけでものごとが極端に変わったわけではないと考えています。いま大きく変化、躍進している企業や事業には以前からその種があったのであろうと思うのです。例えば、世の中の動向としてはEC事業が売り上げを伸ばしている企業が多いと思いますが、それは新型コロナウイルス感染症とは関係なく、もともとECの準備をきちんと進めていた企業です。コロナ禍以前に、今後の変化の兆しのようなものをきちんと予見して、すでにはじめていた人たちが、この機会にその成果や手ごたえを感じているのではないかと思うのです。
また、クリエイティブなアイデアでこの状況を乗り切っていこうとする動きもあります。例えば、多くの集客を目的とする音楽ライブや演劇、スポーツイベントなどが軒並み苦戦を強いられている現状ですが、公演の中止や延期が相次ぐ中、音楽業界では有料のオンラインライブが急速に広まり定着しつつあります。ミュージシャン達は、オンラインライブ配信という新たな試みを行い、変化を逆手に取り、それでしか味わえない演出や表現方法で新しい価値の創出に挑戦しています。私自身もこの夏にオンラインライブを2度ほど経験し、ミュージシャンやそれに関わるスタッフ達の熱量を感じながらの新しいライブのカタチを楽しみました。また、ライブは視聴券を購入する形式で興行的にも成功を収め、ライブ配信へのトレンドに追随する動きがあることから、ライブ配信サービスおよびアプリが急成長する可能性があると考えられています。
このように、厳しい状況下で新しい価値を見出していくことのできる人たちは、今日以前より変化を受け入れ楽しんでいた人たちであるように思えます。常に変化し続けていくこと、進化していくことが企業の成長には大切であると言われていることですが、大切なのは世に中の変化に気づき、自分たちもその中で変化していく、変化を楽しみながら様々なことに挑戦しているような人たちが、「ピンチをチャンス」に変えていけているように思うのです。
パンデミックとデザイン
現在、デザイン業界も他に漏れることなく、大きなイベントや事業の中止を余儀なくされ経済的影響を受けています。しかし、この状況にデザインに携わる身として、ただ怯えているだけでいいとは思ってはいません。デザイナーは、この厳しい状況だからこそ、デザインの領域を超えて対処する力量が必要であるとともに、様々なことを統合的に捉えて、デザインの力で「ピンチをチャンス」に変えていかなければならないと思っています。メディアの環境も変わり、コミュニケーションの方法も、デザインという営みの意味や役割も大きく変わってきている今日、デザインは社会の様々な問題解決のために、新しい価値観や未来への方向性をビジュアライズさせていかなければなりません。
変化のあるところには必ず新しい価値が創出されてきたことは歴史が証明しています。デザインを取り巻く世界では、産業革命、技術革命、情報革命などにより今までも大きく変容してきましたし、今後も大きく変わり続けると考えられます。その時代時代で、デザインは新しい価値を社会と呼応しながら築いてきました。14世紀にペストがヨーロッパで大流行した後にルネサンスが起きたこと、パンデミックが文化を進化させたことが無関係ではないとみる人がいるように、この抑圧された状態から解放された後に発芽する新たな思考や価値に対し、デザインがより良く機能していくこと。そのためにデザインの可能性をもう一度考え、先にある新しい時代のために向かっていかなければならないと思っているのです。
デザインのこれから
「デザインとは、全てのことを繋ぐことができる特殊な技能である」とグラフィックデザイナーの佐藤卓さんがおっしゃっていますが、人や物の交流が制限された2020年、全てのことを繋ぐことができるデザインには、まだまだできることはありそうです。世の中が著しく変化したとしても、それぞれの関係は人が適切に繋がなければいけません。この厳しい経験から学ぶべきことを推考し、その中から新しい思考やアイデアで様々なことを繋いでいくこと、デザインと関わりがない物事は何一つないということに気づくことで、私たちデザイナーがやるべきことは、どんな状況下でも無限にあると再認識できるはずです。
2020年12月、まだまだ先の見えない状況ですが、この先も変化を恐れず前進し、デザインであらゆることを繋ぐ挑戦をしていきたいと考えています。そして、デザインが社会のためにできることは何かを引き続き模索していきたいと思います。
クリエイティブディレクター・アートディレクター / O.H